約 1,076,933 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/932.html
「どう?平民に見下ろされる気分は?」 トリッシュの顔を見上げるルイズ。身体を動かそうとするが、なぜか地面に服が張り付いて動けない。 「マジでビビッたわ、アンタの魔法。マリコルヌがアンタのこと『ゼロ』って言ってたけど、 それってなんでも吹っ飛ばすから『ゼロ』って呼ばれてるのかしら?」 ルイズは悔しげに顔を歪ませトリッシュから視線を逸らす。ルイズが魔法の才能『ゼロ』だから そう呼ばれていることをトリッシュは知らない。 「平民にまで………負けて……私は…」 ルイズの呟きをトリッシュは聞こえなかったのか、聞かないフリをしたのか、無視して話を続ける。 「さっきの演技も…騙されたわ。正直アンタが脚を狙わなかったら負けてたわね」 それも違う。本当は胴体を狙ったのに脚に当たった。魔法の成功率も命中率も『ゼロ』 ルイズは『ゼロ』とバカにする者たちの顔を思い出し、平民にまでバカにされ泣きそうになる。 今にも泣きだしそうなルイズに顔を近づけ、トリッシュは囁きかける。 「今からアンタを殺すんだけど、もしアンタが土下座しながら私に、 『お許し下さいトリッシュ様。二度と逆らうようなことは致しません。どうかご慈悲を』って 言うなら命を取らないであげるわ。どう?私って優しいでしょ」 トリッシュはその眼に凍てつくような殺意を込めてルイズに微笑みかける。 ルイズは視線をトリッシュに移しその眼を真っ向から見据える。その眼に強い意志が戻っていた。 「私には貴族としての『誇り』があるわ!そんな恥ずかしい真似は絶対にしない!!」 ルイズは眼に怒りを宿しながら、“さっさと殺せ”と叫ぶ。それをトリッシュは冷たい眼で見下ろしていた。 「そう。いいわ殺してあげる。だけど、その前に一つ質問をするわ」 「まだ言うつもりなの!早く殺しなさい!!」 叫ぶルイズの顔を引き寄せ、澄んだ眼でルイズを見つめトリッシュは語りかけた。 「アンタさっき『誇り』って言ったわよね。じゃあ質問よ。平民に『誇り』はあると思う?」 「なに言ってんのよ!そんなの知るわけないでしょ!!」 「真面目に、答えて」 トリッシュの有無を言わせぬ迫力にルイズは口を閉ざし……生まれて初めて平民について考えた。 しかし、判らない。公爵家の三女として生まれ、平民は貴族に傅く者。貴族に奉仕するもの。 そう教えられ、そう思って今まで生きてきた。事実、全ての平民は自分の前に跪いた。 だから平民に貴族と同じく『誇り』があるのか判らなかった。 「わから……ない…わ」 ルイズがなんとか言葉を搾り出し、それを聞いたトリッシュがルイズの顔から手を離し立ち上がる。 殺されると思い、怒りが冷めて目の前に迫る死に恐怖し身体を竦ませ眼を瞑る。 だが、幾ら待っても最後の瞬間が訪れない。 怖々と眼を開くとトリッシュはルイズを見つめていた。眼を開くのを待っていたようだ。 「アンタ。シエスタの髪をバカにしたとき、彼女の顔を見た?」 質問の意味が判らなかった。シエスタとはあのメイドのことだろう。見ていないので首を振る。 「あの子、怒りと悔しさが混じった顔をしてたわ。『誇り』を傷つけられた顔をね」 ルイズはそのときの光景を思い出した。髪を罵ったとき、あのメイドの肩が震えていた。 あの時は怯えているものとばかり思っていた。 「私はあの子のことは良く知らない。この世界のこともね。アンタたち貴族が好き勝手に 振る舞おうと正直に言って私の知ったことじゃないわ」 言葉を区切り、トリッシュはルイズを見つめる。二人の視線が絡み合った。 「でも…『誇り』を傷つけることは許せない。それを目の前で見過ごすことはできない。 それを許したら『誇り』を守って死んでいった『仲間』に対して顔向けができないわ」 ルイズは悟った。トリッシュはあのメイドを庇ってルイズと決闘した訳ではない。 メイドの『誇り』が傷つけられたから戦ったのだ。 「アンタはまだ幼いわ。自分が誰なのかも判っちゃいない。だから、今は殺さないであげるわ」 そう言ってトリッシュはルイズに背を向けて脚を引きずりながら広場から去って行った。 ルイズは呆然と座り込む。いつの間にか、動けるようになっていた。 「あ~あ、平民にまでバカにされてダメね~。あなたをライバルだと思ってた自分が情けないわ。 帰るわよタバサ。『なにをすれば良いのか』も判らないおバカはほっときましょ」 歩き出したキュルケの後をタバサが追って二人は歩き出す。 つまらなそうなキュルケの顔をタバサは感情の伺えない眼で見つめ、その視線に気付いた キュルケはタバサを無視しようと思ったが、できなかったので唇を尖らせながら話しかける。 「なによタバサ。そんな眼で見ないでよ」 「ツンデレ」 タバサは小さな声で呟き歩みを速める。その後を顔を真っ赤にしながら叫ぶキュルケが追っていった。 「おいルイズ、大丈夫か?怪我してるんだろ?」 彼女の使い魔の少年が話しかけるがルイズは放心したまま動かない。 「なんだよ負けたことを気にしてるのか?別に良いだろ?勝率が『ゼロ』からマイナスに…ふぐりッ!!」 ルイズは『ゼロ』の言葉に反応して少年の股間を蹴り上げると、フラフラと立ち上がり 覚束ない足取りで医務室を目指し歩き始めた。 ルイズが立ち去った後、広場は男たちの泣き声と呻き声の三重奏に支配された。 トリッシュがヴェストリの広場を立ち去ったのと同時刻。中庭での惨劇も終焉を迎えていた。 倒れたコルベールに使い魔が襲い掛かるが、コルベールは平然と使い魔を待ち受ける。 体当たりの直前で使い魔は軌道を変え、コルベールの脇をすり抜けて迷走し始めた。 「ミスタ・コルベール!大丈夫ですか?!」 コルベールは慌てた様子で近づく一人の生徒に微笑んで立ち上がる。 「私なら大丈夫だ。すまないが君も怪我人を運ぶのを手伝ってくれ」 「判りました!しかし、あの使い魔はいったい……?」 先程まで暴れていた使い魔が目標を見失ったように迷走する様を見て生徒は不思議がる。 「あの使い魔は私の放った炎全てに体当たりをしたんだ、外れたものも含めてね。 それを見て判ったんだよ。あの使い魔は熱を探知して襲い掛かるんだってね」 迷走する使い魔には釣り竿のような物が付けられ、その先端にはコルベールが灯した 炎が揺らめいていた。 「フギャ?!」 猫のような植物がミセス・シュヴルーズに狙いをつけた直後、猫のような植物の周りの 赤土が盛り上がりゴーレムが姿を現した。ゴーレムはそのまま猫のような植物を 地面ごと持ち上げどこかに運んでいった。 「見せようよ『背中』ねっ」 ギトーは背中の使い魔を剥がすことを諦め、杖を自分に向ける。 「じゃあ後は頼むぞ『私』」 「ああ、任せろ『私』」 自分がとり憑いた人間と同じ顔をした人間がもう一人現れ使い魔は混乱した。 「えっ?どうなってるの?えっ?」 「これが風の系統が最強たる所以だ。お前がとり憑いたのは私の分身だよ」 ギトーの『偏在』が自殺し、本体を失った使い魔も虚空へと消えていった。 教師たちの戦いの一部始終を鏡から覗いていたオスマンは、溜息を吐いて椅子に身を沈める。 この程度の事態を自力で解決できない者などオスマンの元には一人もいない。 教師たちの心配はしていなかったが、未熟な生徒たちに被害が出たことが唯一気掛かりだった。 これだけの事件となれば揉み消すことなどできない。やがて王宮より査察団が来るであろう。 そのことがオスマンの頭を悩ませた。 査察団が問題ではなく、それを率いる人物が問題なのだった。 ジュール・ド・モット。この男は女好きで有名な貴族で、トリステイン魔法学院においても若いメイドに 眼を着け自分の屋敷に迎え入れることが度々あった。 そして、この男には黒い噂があった。迎え入れたメイドが数日後に失踪するのだ。 使用人が失踪すること自体はどの貴族の屋敷でも稀にだがある。 大抵が酷い扱いを受けて逃げ出すのだが、この貴族の屋敷では必ずそれが起こった。 それもメイドだけではなくその家族も含めてだ。 しかし平民が貴族を訴え出ることなどできる訳がなく、貴族は平民のことなど気にもしない。 「若い子らを隠すかの~」 オスマンはもう考えを廻らせて、もう一度溜息を吐いた 戦場のように慌しい医務室まで続く廊下をルイズは夢遊病者のような足取りで歩いていた。 次々と運ばれる怪我人の呻き声と医師たちの叫び声も耳に届かず、トリッシュの言葉が頭の中で 渦を巻いて鳴り止まない。 貴族の『誇り』とは敵に背を向けぬこと。両親からそう教わった。だが、目の前に死が迫ったあの時、 怖かった。逃げ出したかった。死にたくないと思った。 自分が情けなくなる。魔法が使えないから他人よりも貴族らしく振る舞おうと必死だった。 それがどうだ、蓋を開けたら中身は『ゼロ』。貴族の欠片も残ってはいない。 貴族と言う肩書きを取ったら自分になにが残るのか?『ゼロ』だ。何も残らない。 自分に付けられた『ゼロ』の二つ名。今までそれを否定してきたが、それは当たっていたのだ。 魔法の才能『ゼロ』、中身も『ゼロ』、ゼロ、ゼロ、ゼロ、自分には何もない。 そう思ったら、可笑しくなって、いつの間にか泣いていた。 「ミ……ヴァ…エール?ミス・ヴァリエール?!」 誰かが自分の名前を呼んでいる。顔を上げたら一番会いたくない人物がそこにいた。 「ミス・ヴァリエール!?ご無事ですか?!酷い怪我を……早くこちらへ!」 連れられるままに医務室まで辿り着く。 「先生、怪我人です!ミス・ヴァリエールがお怪我を!!」 「すぐに終わる!そこで待たせておいてくれ」 ルイズとシエスタの間に気まずい空気が流れる。それを感じているのはルイズだけだが。 「ねえ…どうして……?」 「如何なさいました?!傷が痛み……」 「どうしてよ!!」 ルイズの叫びにシエスタの言葉は掻き消された。 「どうして……なんで…私に優しくするのよ!!」 「なぜと申されましても、私は貴族の方々をお世話する……」 「だからどうしてなのよ!!私はアンタに酷いこと言ったじゃない!アンタの髪の色をバカにしたじゃない!! どうしてなのよ……どうして…………」 感情が昂ぶり、ルイズは再び泣き出した。その様子を見てシエスタはルイズの涙を拭い優しく微笑む 「そうですね、あの時は凄く悔しかったです。私の髪の色って死んだおじいちゃんと同じ色なんです。 だから、おじいちゃんをバカにされた気がして……あっ!でも、もう気にしていませんから」 ルイズはやっとトリッシュの言葉の意味を理解した。 トリッシュは誇りを守って死んでいった仲間を、シエスタは祖父を侮辱されたことが許せなかったのだ。 いつも自分のことばかりで他人を省みなかったことが恥ずかしくなった。 「ア…アンタの髪の色ってさ……よく見ると結構キレイじゃない…私のマントみたいで……」 ルイズは真っ赤になりながらも、なんとか言葉を口にして顔を背ける。 シエスタはルイズを不思議そうな顔で見て、笑って頷いた。それを見てルイズも漸く笑った。 「なんだかさ~前より脚が太くなった気がするわ。ほら、太ももとかさ~」 「そんなはずはない。後がつかえてるんだ、早く出て行きなさい」 聞き覚えのある声にルイズとシエスタが振り向く。医者に追い出され医務室から出てきたのは 脚に包帯を巻いたトリッシュだった。 「ア、ア、アンタ!なんでここにいるのよ!?」 「なんでって、アンタに脚を吹っ飛ばされたからでしょ。もう忘れたの?」 「ミス・ヴァリエールに?!」 驚くシエスタに挨拶して、トリッシュは脚を引きずりながらルイズと擦れ違う。 その後ろ姿にルイズは恥ずかしそうに声を掛けた。 「ひょ、ひょっとして…聞いてた?」 「なにも聞いてないわ。どうしてよ!とか~私のマントが黒くてキレイだ。なんてぜ~んぜん聞いてないわ」 「ぜ、全部聞いてるじゃないのーー!!」 今度は怒りでルイズの顔が真っ赤になる。 「次!早くしなさい!!」 「ミス・ヴァリエール。先生がお待ちですから」 シエスタに促され、恨みがましい眼でトリッシュを見ながらルイズは医務室に入って行った。 翌朝のアルヴィーズの食堂。 トリッシュは相変わらず貴族の席で食事を取り、ルイズがそれに絡んでいる。 昨日とまったく同じ光景だがルイズが昨日と違い本気で怒っているのではなく、トリッシュと じゃれ合っているような印象を受ける。 ルイズが包帯が巻かれた手で白魚のムニエルと格闘していると、トリッシュがそれを取り上げ綺麗に切り分ける。 「その手じゃ食べにくいでしょ?はい、あ~ん」 「こ、子供じゃないんだから!一人で食べれるわ!!」 「あ~ん」 「い、一回だけだからね!」 ルイズは顔を真っ赤にしながら口を開ける。ルイズの口に白魚の切り身が入ろうとした時、 トリッシュはフォークを返してそれを自分の口に放り込む。 「結構イケルわね」 「あ~っ!なんでアンタが食べてんのよ!!」 キュルケは離れた席でルイズとトリッシュの微笑ましいやり取りを眺めていた。 「そうでなくっちゃ私のライバルの資格はないわ」 「あ~ん」 タバサがいつの間にか白魚の切り身が刺さったフォークを差し出している。 「私もやるわけ?」 「あ~ん」 「はいはい、しょうがないわね。」 キュルケは眼を瞑って口を開ける。タバサがフォークを口に入れようとして、その手を止める。 「かかったなアホが」 右手の切り身はフェイント!本命は左手に握られたはしばみ草が刺さったフォークだ!! キュルケの口の中は白魚のムニエルを迎える準備が完了し、後はそれを待つだけとなっていた。 そこにとっても苦いことで有名なはしばみ草が襲い掛かった!! 攻守共に完璧な攻撃が口の中を襲い、キュルケの絶叫が食堂中に響き渡った。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/98.html
落ち着いてきた、わたしは貴族よ。いつまでも泣いているわけにはいけないわ ゾクリ・・・背中に寒気が走る 嫌な、予感がする・・・あの使い魔がイラ付いている。 「何が、起こっているの?」 機嫌よく、食事をしているはずなのに。急いで食堂に向かった 「決闘、決闘だ」 食堂に着くとなにやら、騒がしかった 「ギーシュとルイズの使い魔が決闘するぞ」 なんですって!わたしは人ごみを掻き分けプロシュートに駆け寄る 「あんた!何してんのよ」 「よおルイズ」 「よおじゃないわよ!なに勝手に決闘の約束なんかしてんのよ!」 「俺は、ただ香水を拾ってやっただけだ、結果ギーシュの二股がバレ、 腹いせに俺をぶちのめすそうだ」 簡単に、今の光景がイメージ出来たわ 「謝っちゃいなさいよ」 「なに?」 「怪我をするから、謝ってよ。今なら許してくれるわ」 「だめだ、そんなことすりゃ舐められる」 中庭には生徒たちで溢れていた、暇人どもめ 「さてと、では始めるか」 ギーシュのゴーレムが一体出現する なんで怖がらないの・・・? わたしの中に、あの使い魔の感情、思考が少しづつ流れてくる パワーはどれ位だ? どんな能力なんだ? 冷静にギーシュのゴーレムを観察している 「ゴーレムがいったぞ」 誰かの野次が飛ぶ 何あれ?プロシュートの前にゴーレムじゃない何かがいる その、うっすらと見える何かはゴーレムの拳を難なく受け止めた グレイトフル・デッド グレイトフル・デッド あの使い魔を守る様に立つ、うっすらしたモンスターの名前なの? どんな、図鑑にも見たことが無いわ。なんて禍々しい姿なの バリバリバリ ギーシュのゴーレムが粘土の様にグチャグチャにされていく 「おい、ゴーレムが勝手に潰れていくぜ」 「錬金が、甘かったんだろ」 隣の野次に耳を疑う・・・見えていないの? ギーシュの様子も見てみるが、間抜けズラを晒している 彼にも見えていないようだ プロシュートがゆっくりとした足取りでギーシュに歩み寄る 「ひいっ!」 ギーシュが六体のゴーレム出す これで、全力か? また、声が聞こえてくる。 六体のゴーレムを見て、まだ思考に揺らぎがない。何なの、この使い魔は 六体のゴ-レムが一斉にプロシュートに襲い掛かる 動きがバラバラだな、てんでなっちゃいねえな プロシュートはゴーレムに距離を置きながら一体、一体を確実に潰していく 「どうなってんだ?」 「あの使い魔、メイジか?」 「杖、持ってねえぜ」 アレが見えないと不思議な光景だろう、教えてあげないけど ギーシュが目を白黒している 「へ?あ?お?」 こうなるとギーシュは、ちょっと哀れね。あっ!薔薇落とした 最後の一体が潰され、二人が向かい合う 「ま、参った」 ギーシュの降参 おわった、2人とも怪我も無く、無事で良かった 「えっ、もう終わり?」 「一体、何がおこってたんだ?」 ゾクリと寒気がしたのと、 バギィ という音がしたのは同時だった プロシュートがギーシュに肘打ちし、踏み倒す ドガ ボコ ボコ ボコ 「何をする!やめたまえェ」ギーシュが叫びだか、悲鳴だかを上げる あれだけ、冷静であった使い魔が、今・・・激怒している!
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/378.html
地面に放ったエメラルド・スプラッシュの威力を見て、こちらへ近づこうとしていた鎧の男は足を止めた。 先ほどまでこちらに敵意を向けていた奴らも、目を丸くしている。 ともかくこの行動で、スタンド使いが今、ここにいないのは確認できた。 才人を引っ張る時も、今、エメラルド・スプラッシュを撃った時も、誰も反応しなかったからだ。 ならば結論は一つ。 僕をここに送り込んだ奴は、別にいるッ! そうと決まれば、急いで本体を探さなくてはならない。 しかし…… 「なんだよっ、変な所につれてこられたと思ったら、いきなり宙に浮いたりっ! 訳わかんねぇよ!」 あまりにも非常識な光景に、才人が思いっきり愚痴をたれた。 才人は僕と違い、スタンド使い、いや一般人に襲われても、それをのける術が無い。 多少危険だが、真っ先に逃がすしかない。 僕はハイエロファントの触手を、城壁に引っかけ、もう片方の触手を才人に巻き付けた。 そしてそのまま、定滑車の要領で城壁まで才人を持ち上げる。 「うおっ! なんだよ、これは!」 「黙ってろ! 舌を噛むッ!」 全力で才人を城壁の通路まで押し上げる。あまり力の強くないハイエロファント・グリーンにとっては、殆どパワーに余裕がない。 今、攻撃されれば、僕に身を守る手段はないッ! しばしの間。 誰もこちらに攻撃してくる気配はない。それどころかほぼ皆が、僕の方には見向きもせず、才人の方を向いて驚いたような顔をしている。 「『フライ』ッ! しかも速い!」 「何で平民が魔法を使えるんだ!?」 「いや、その前に…… 誰か、あいつが杖を抜く所を見たか!?」 其奴等は、人が浮くということとは別の次元で驚いているようだった。 まさかスタンドの代わりに、違う概念があるとでもいうのだろうか? ともかく、今はここから離れるのが先決だ。 友好的にすまそうにも、僕らはここの奴らに、敵意をもたれすぎている! そのまま、才人を引き上げたハイエロファント・グリーンに捕まり、自分も城壁へと登る。 「この、火のラインメイジである僕が…… この僕が! 」 地面から立ち上がったマントをつけた奴らの一人が、こちらをにらむ。手には長めの棒ッきれらしきものが握られていた。 其奴は何かをブツブツとつぶやく。すると、杖の先に50cmはあろうかという火球が現れた。 「『フライ』中なら、さっきの妙な技もつかえまいッ! 平民風情がっ、思い知れ! 『フレイムボール』!!」 こちらに向かって火球が飛んできた。 僕は確信する。ここにはスタンドと違う、けれども似たような概念が存在するのだと。 速度は中々に速い。このままではかわしきれないだろう。 だが、このサイズなら…… 「かき消せるッ! 『エメラルド・スプラッシュ』ッ!」 僕の捕まっていた触手から、エメラルドの力のビジョンが放たれる。 そのビジョンは、僕を追ってくる火球をうち消し、そのままマントの男に襲いかかった。 「何で『フライ』中に呪文が使えるんだッ!」 マントの男はそういって、僕のエメラルドスプラッシュを全身に浴びる。男の身体は木の葉のように宙に舞い、地面へとたたきつけられた。 下の広場が、一気に騒がしくなった。今ならここから逃げ切れる! 「なぁ、お前、今のどうやったんだ?」 「後で教えます。兎に角、いまは早く……」 下を見る。周りは平らな土地であるが、所々に点在する木々に隠れながらいけば、何とか巻けるかも知れない。 そのとき、後ろから小柄な少女特有の、高い声が聞こえてきた。 「まちなさいっ!」 僕らは、とっさに振り向いて、声の主を確認する。 その声の主は、こちらへ着た時、才人の一番近くにいた、桃色がかったブロンド髪の少女だった。 しかし、僕の視線はすぐにその少女の周りへと向けられた。 マントをつけた奴らが、さっきの奴と同じように、こちらに杖を構えていたからだ。 「ちょっとあんた達、あたしの『使い魔』に何するのよッ!」 「うるさいッ! まだ『契約』もしてないだろうが! 第一、『メイジ』だろうが『使い魔』だろうが、平民風情に貴族が遅れを取るなんて、恥さらしも良い所だッ!」 マントをつけた奴らのリーダー格らしき男と、先ほどの少女がなにやら言い争っている。 耳を傾けてみると、使い魔やら、契約やら、メイジやら、全く聞いたことのない単語が、連呼されているのが聞こえた。 良く解らないが、とりあえず、只で返してくれるつもりは無いらしい。 僕はハイエロファントをもう一度ほどき、触手状態にする。そしてそれを城壁の一カ所、一カ所に引っかけ、蜘蛛の巣のように張り巡らした。 再び下を見る。いつの間にか少女の姿は消え、マントをつけた奴らが杖の先を光らせていた。人数こそ10人ほどいるが、さっきの奴より大分、光が小さい。 無駄だと悟りつつ、僕は一応の警告を入れた。 「既にこちらには、そちらを攻撃する用意が出来ているッ! 何もしなければ、こちらも手を出すつもりはないッ」 「今更ァ、後に引けるかァァァァアアアッ!」 杖の光が石、氷、風、火… 兎に角、様々なものに変化し、僕らめがけて飛んでくる。 相手に引く意思は全くないようだ。ならッ! 「伏せてろ、才人! 『エメラルド・スプラッシュ』 INッ! 『法王の結界』ッ!」 僕も全力で応じよう。 人型の時なら裁ききれない量だが、この状態なら問題ではないッ! 先ほどの何倍もの量で発射されるエメラルドの破壊のビジョンは、石も、氷も、風も、火も全てを巻き込んで、奴らに襲いかかる。 相手を殺さない程度に加減はしたが、それでもこの量、もし、まともに食らえば二週間はベットから立ち上がれまい。 土くれはめくれあがり、ものはピンボールのように跳ね、砕け散る。 ほぼ瞬時に、下の奴らは恐慌状態へと陥った。 「ハァ~…… ハァ、ハァ、ハァ…… 」 「お…… おい、大丈夫かよ?」 「心配入りません。少し、疲れただけです」 しかし、僕の精神力も限界に達している。 あと一回、『エメラルド・スプラッシュ』を撃てるかどうか…… 今、逃げ損なったら、次は無いッ! 「走ります。才人、ついてこれますか」 「ああ、何とか」 そのまま城壁の上部を駆け抜け、登った時と同じ要領で、城壁の外へと降り立った。 少し離れた位置に森があったのは、実に運がいい。 ひとまずここに身を隠して、それから本体を探し出して、叩く。 そうすれば…… 「やっぱり、こっちの方にきたわね」 「!?」 いつの間にかいなくなっていた桃色ブロンドの髪の少女が、僕らの目の前に立っていた。 「よくもさんざん逃げてくれたわね……」 そういって、少女は杖を取り出した。どうやらあの力を使うには、こういう棒が必要らしい。 距離は10m程。今はスタンドパワーが惜しい。なら、近づいて取り押さえるッ! 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。このものに祝福を与え、我の使い魔となせ」 杖を取ろうと手を伸ばす。 しかしその手は空を切った。少女の方から、こちらに近づいてきた所為だ。 僕の顔の近くに、少女の顔が寄る。甘いにおいがした。 「あんた、感謝しなさいよね」 少女はさらに顔を寄せてくる。 何を感謝しろというんだ! と心の中で毒づきながら、僕は少女から逃れるように、思いっきり上体をそらした。 ……少しそらしすぎた。体勢を崩した僕は、そのまま少女に巴投げをかけるようにしてこける。 「「え?」」 僕の後ろにいた才人は、そのまま少女と頭突きとも取れるような、盛大なキスをして、仲良く地面へと倒れ伏したのだった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2565.html
「なんで外で待ち伏せしてんだよぉー!さっきはいなかったのにぃー!!」 「し、知らないわよッ!!」 康一とルイズはそろって腰を抜かしている。 キュルケも胸を押さえて荒い息をついている。 「あ、危ないところだったわ・・・」 タバサはいち早く立ち上がり、ゴーレムに杖を向けている。 ゴーレムは小屋から脱出した四人を見つけ、こちらに顔を向けた。 「・・・来る。」 タバサは杖を降りあげた。 ウインドブレイク! 圧縮された風の槌が打ちつけられる。 しかし表面の土を飛び散らせるだけで、ゴーレムは意にも介さない。 キュルケもタバサに続いて、ファイアーボールを放った。 ゴーレムの表面で爆発した火の玉は、炎と火花を飛び散らせたが、やはり効果は薄そうだ。 「大きすぎるし鈍すぎるわよ!」 ゴーレムの歩みは止まらない。 康一は剣を抜いた。シュペー卿の剣が怪しく光を放つ。 「ルイズ!逃げるんだ!」 しかしルイズは座り込んだままだ。 「だ、だめ。腰が抜けちゃった・・・。」 「くっ!!」 やるしかないのか!? 「キュルケさん!タバサ!ぼくが足止めするから、ルイズを連れて下がって!」 「い、嫌よ!私も戦うわ!」 ルイズは立ち上がろうとするが、足に力が入らない。 「お願いだよ!ルイズは『弓と矢』を守って!」 康一はルイズに『弓と矢』を預け、返事を待たずにゴーレムに向かって駆けだした。 「ちょ、ちょっと!コーイチ!!」 迫り来る康一にゴーレムは長い腕を思い切り叩きつける。 しかしガンダールブのルーンによって、人外の反応速度と機動力を得た康一はやすやすと、叩きつける大質量をかい潜る。 速度に着いていけないゴーレムは足下を飛び回る康一をただ追うばかりだ。 「今のうちに下がるわよルイズ!」 その間にキュルケとタバサがレビテーションで連れて逃げる。 「ちょっと!離しなさい!コーイチを置いていけないわ!」 ルイズは抵抗するがレビテーションで浮かされているので空中でじたばたとするばかりである。 一方の康一は、ゴーレムの動きに慣れてきていた。今の自分なら、逆にこいつを倒すこともできるかもしれない。 汗ばむ手で剣を握り直す。 ゴーレムが拳を落としてくる。それをすれすれで回避し、手首に向かって野球のスイングのように剣を降り抜いた。 ザシュッッッ!! 剣はゴーレムの大木のような腕を半ばまで斬り裂いた。 「よし、いける!」 これなら何度も切りつければ切断することだって可能だ。 しかし 「ぬ、抜けない!?」 根元まで埋まってしまった剣は、引き抜こうにもびくともしない。 ゴーレムは剣の刺さったままの腕を大きく振り回した。 「し、しまったぁぁー!」 剣がないと、ガンダールブの恩恵が受けられなくなる。離すわけにはいかない! 康一は剣にしがみついたまま振り回された。 そして・・・ 「うわぁぁぁぁぁぁl!!」 まるで遠投されたボールのように木々の向こうに飛ばされていった。 「コーイチーー!!!!」 ルイズが叫ぶ。 「ダーリン・・・」 キュルケとタバサもしばし呆然としていた。 しかし、康一を片づけたゴーレムがこちらに視線を向けた。 「・・・ダーリンの心配をしている暇はなさそうね。」 キュルケが言うと、タバサは黙って杖を構えた。 「コーイチ・・・コーイチが・・・」 未だ放心して座り込んでいるルイズをキュルケが叱咤した。 「ルイズ!ダーリンは大丈夫よ!きっと戻ってくるわ!」 「それよりこっちの心配をなさい!『弓と矢』を守れって言われたんでしょ!」 ルイズは思った。 そうだ・・・。私はこんなところでお荷物になるために来たんじゃない。 私は自分が貴族にふさわしいことを証明するためにここに来たのだ! 杖を抜き、立ち上がる。 「私の仕事は『弓と矢』を守ること。コーイチが戻ってくるまで!」 キュルケは心の底から満足そうに笑った。 「それでこそ私のライバルだわ!」 一方、飛ばされてしまった康一はというと。 「ぐ・・・ううっ。死ぬかと思った・・・。」 なんとか生きていた。 投げられた先で木の幹に叩きつけられようとした直前、「ポヨヨォ~~ン」の擬音を張り付けて衝撃を和らげたのだ。 しかし跳ね返った後、枝で全身に切り傷を作り、地面に叩きつけられたので、すでにぼろぼろである。 「早くみんなのところへ戻らないと・・・」 康一は剣を杖に立ち上がろうとして。 「な、なんだこれぇぇーー!」 剣が根本からポッキリ折れていることに気がついた。 「シュペー卿が鍛えた魔法の剣がこんなにあっさり折れるもんなのかぁ~!?」 折れたのはたぶん振り回された時だろう。 とにかく、もうこれは使いものにならない。ルーンも武器として認めないのか、反応しない。 「・・・そうだ。馬車にはまだデルフリンガーがある!」 康一は折れてしまった剣の柄を捨て置き馬車へと急いだ。 ルイズたちの戦いも熾烈を極めた。 ゴーレムの表面で爆音とともに土が盛大に弾ける。ルイズの爆発だ。 しかし、すぐに土が集まり、傷跡を修復していく。 「こ、これはそろそろ逃げた方がいいかもしれないわね。」 キュルケは汗で額に張り付いた髪をかきあげた。 土くれのフーケは土のトライアングルだと聞いている。それなのにトライアングルの火と風、それにルイズの三人がかりでもゴーレムを倒すことができない。 「・・・」 タバサは答えずに呪文を詠唱する。 実は先ほどから上空で待機させていたシルフィードに飛び乗るタイミングを窺わせていたのだが、それをさせまいと立ち回るゴーレムが邪魔をし、果たせずにいた。 「逃亡するにもきっかけが必要。」 走っても追いつかれる。逃げるならシルフィードに乗るタイミングを作り出さないといけない。 「じゃあ、きっかけを作るしかないわね・・・!タバサ!あれ、行くわよ!!」 キュルケが振り向くと、タバサがコクリと頷く。 詠唱とともに、タバサが風を纏い、氷の結晶が集まってくる。 そしてキュルケは今まで以上に念入りに魔力を集め、特大のファイアーボールを形成した。 タバサが杖を降る!ウインディ・アイシクル! ゴーレムの左足の根本に氷の刃が深々と突き立つ! そして間髪入れずのファイアーボール! 親友同士だからこその暗黙の連携! タバサが作り出した冷気によって集積、圧縮された空気や水が、キュルケの炎で急激に熱せられ、爆発的速度で膨張する! ドォォォォン!!! 爆風が吹き荒れ、ゴーレムの左足が爆散した! 片足を失い、バランスがとれなくなったゴーレムが転倒する。 期を逃さず、タバサが指笛を吹く。今ならシルフィードが拾い上げることができる。 「ルイズ!逃げるなら今よ!こっちへ!!」 キュルケがルイズを呼ぶ。 しかしルイズは振り向かない。 「ルイズ!!」 キュルケが叫ぶ。 「嫌よ!もう逃げたくないの!私はもう、逃げないわ!!」 ルイズのファイアーボール。未だ、爆発しか起こせないものの、訓練のたまものか、以前よりも格段に命中率が向上している。 手を突いて立ち上がろうとするゴーレムの手首に命中し、ゴーレムは再び突っ伏した。 しかし、ゴーレムは猛烈な速度で再生する。 「もう限界。」 これ以上待てば、離脱する最後のチャンスを失う。 タバサはキュルケを強引に引きずり、飛来したシルフィードに飛び乗った。 「ルイズーー!!」 キュルケは叫ぶ。飛び降りようとするが、タバサがつかんで離さない。 「もう私たちにできることはない。行っても死ぬだけ。」 キュルケは歯噛みした。 「もう!どうしてトリステインの貴族はこう変なところで意地っ張りなのよ!!」 ゴーレムの再生が完了した。 再び立ち上がったゴーレムを、ルイズは睨みつけた。 怖い。膝が震えるのを隠すこともできない。 座り込んでしまいたい。泣いて助けを呼びたい。 でもできない。ルイズの貴族としての矜持がそれを許さない。 魔法の使えないルイズにとって、矜持のみが自らを貴族たらしめるものだからだ。 立派な貴族として認められたい! 詠唱、照準、引鉄。 できそこないのファイアーボールが表面で弾けて土をまき散らす。 しかし歩みは止まらない。 私の魔法じゃ、こいつを止められない・・・!それはわかっていた。 でも・・・・ 「これならどうかしら。」 ルイズは弓に矢をつがえた。 当然弓矢など使ったことはない。むしろ魔法を絶対視する、貴族にとって軽蔑すべき平民の武器。 しかし学院の最秘宝。禁断とされたこの『弓と矢』なら、あんなゴーレムなど一撃で倒してしまえるはずだ。 昔見た平民の狩人を思いだし、見よう見まねで狙いを定める。弦の重さと同時に恐怖で腕が震える。 本当に当たるだろうか。でも、当てるしかない! ルイズは矢を放った。 素人のルイズが放った矢は、バヨ~ンと間抜けな音を立ててあさっての方向に飛んだ。 しかしルイズにとって幸運だったのは。それでも当たるほどゴーレムが近くに近づいていたこと。 そして・・・ 「そ・・・そんな・・・」 不幸だったのは矢がゴーレムに突き刺さっても、何の意味もなかったということ。 そして、矢が刺さった時点で、ルイズはゴーレムの必殺の射程圏内まで近づかれていたということだ。 ゴーレムがゆっくりと拳を振りあげる。 「ルイズーー!!」 康一が飛び出してきたのはその時だった。デルフリンガーの鞘を捨て、風のような速度で走る。 「こ・・・」 声が出なかった。 ルイズは弓を、杖すらも打ち捨ててただ、走り来る康一に向かって手を伸ばした。 地面を擦るように飛来する、ゴーレムの岩石の拳が。 康一の目にも留まらぬ疾走が。 共にルイズに迫った。 しかしガンダールブの必死の手は後わずか、彼の主人まで届かなかった。 ほんの一瞬、ゴーレムの拳が早かった。 ルイズは死んだ。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2551.html
反省する使い魔! 第二話「召喚奇想天外」 目から覚めるとそこには今時の日本では滅多に見られないと思わせるような 澄んだ青空が目に入る、自分は今なぜか横になっているようだ。 すると急に後頭部から痛みがやってきた。 「いってー…、頭でも打っちまったかぁ?」 むくりと起き上がり頭を擦りながら音石は周りを見渡す 「…どこだよ…ここは?」 どうなってんだ?俺ぁさっきまで駅のホームに居た筈だ。 それじゃあ、このサラサラした草原やあの中世のヨーロッパあたりを 連想させやがるデッケー城はなんだ!? などと混乱しながらも音石はついさっきまでの事を思い出す。 (電車が来て乗ろうとしたら……そう、鏡みたいなモンが現れて… 鏡?そう、鏡だ鏡!あれに飲み込まれたんだッ!!) そこまで思い出すと音石はハッ!と気付き急いで起き上がり ちゃっかり愛用のギターが傷ついてないか確認しながら 体勢を立てる。 (あの鏡がスタンド攻撃なら…やばいぜ!もうすでにオレはなんらかの スタンド攻撃にハマっちまったって事じゃね~のか~!?) となるとオレを襲う理由は何だ?…決まってる!! 三年前、杜王町でオレがやらかした件でどっかのバカが 仕掛けてきたんだろ~よ~、スタンド使いなら恐らく形兆あたりが動機かぁ~? オレとはちがってあの野郎を慕ってた人間がいてもおかしくはね~… それに形兆ぶっ殺す時の邪魔にならないよーに前もって調べた あのアンジェロとか言うクズ野郎も妙に形兆のことを慕ってたからな… そんでわざわざオレが出所すんのを待ち伏せして…いや、まて…妙だな スタンド使いならわざわざ三年も待つ必要があるかぁ? 刑務所内で仕掛けてきたっていいはずだ… くそっ、こいつはますますワケわかんねーぞ… この時、音石の思考の中に億泰などが出てこなかったのは 彼なりに一度戦った相手として億泰という人間が わざわざ三年も待つような、奇襲するような奴じゃないということを 理解していたからであろう。 「アンタ誰?」 「ああン?」 いきなり話しかけられ声がしたほうに振り向いてみると そこには桃色頭の小柄な少女が自分を見上げていた。 服装はこれまた珍妙で黒いマントを纏い 手には杖のようなものを持っている。 (なんだこいつ?まるでゲームに出てくる魔法使いみてーじゃねーか…) すると音石は周りにも少女と似たような格好をした子供の男女の存在と その傍にいる見たことの無い生き物の存在に気付いた。 それを見た瞬間、音石は危うくスタンドを発現しかけてしたが 彼の用心深い思考がそれを止めた。 (…ッ!?ス、スタンドか!?い、いや違う、スタンド使いとしての 勘だがスタンドとは少し違う!なんてゆーか… そう!スタンドとしてのビジョンらしさが無いんだ! 間田の『サーフィス』みてーに実体があるタイプなら納得いくが この数全部ってのは異様じゃねーかぁ、さすがによ… だが、スタンドじゃないとするとこいつら一体……) 「ちょっとアンタ!誰かって訊いてんのよ!名乗りなさい!!」 そんな音石の思考は先ほどの桃色頭の少女によって中断された。 音石自身、理解不能なことが連続続いているせいで イラついているのかその少女を睨み付ける。 そんな音石の目に少女は若干たじろぐものの負けじと睨み返してくる。 「な、なによその目……へ、平民の分際で無礼よ!」 「平民だぁ~?…一体なんのこと言ってんだ、てめぇ?」 「とぼけんじゃないわよ!変な格好してるけど、あんた平民でしょう!?」 はあっ?と言った音石の顔を見て少女は舌打ちをし 少し離れた位置にいる禿頭の外見40歳くらいの男に抗議をしはじめた。 「ミスタ・コルベール!もう一度やり直しを要求します!」 「残念だがミス・ヴァリエール、それはできない相談だ」 「なぜです!?平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!!」 「それは私も同じだミス・ヴァリエール…しかし、この儀式は 君も知っての通り神聖なものだ、呼び出された以上 彼が君の使い魔ということになるのはもう決まっているのだよ」 「平民でもですか!」 「平民でもだ…ミス・ヴァリエール、それとも君は 始祖より受け継いだこの神聖な儀式を侮辱する気かい? 君はそんな子じゃないだろう?さあ、儀式を続けたまえ!」 「…ッ、わかり…ました」 そのやり取りを見ていた周囲の連中がドッと笑い出す。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうすんのよ!」 「まったくだ、さすがゼロ!期待を裏切らないでくれるよ、クックック」 「ちょっと、ギーシュ!そんなこと言ったらゼロがかわいそーよ、ふっふっふ」 「まあ、ルイズらしいって言えばルイズらしいわね!」 周りの罵倒にルイズと呼ばれる少女は群集をにらめつけながらも 無駄だと判断し、再び音石に視線を向けた。 ルイズは自分が呼び出した使い魔の姿を改めて見てみると 本当に珍しい格好をしている。 自分と同じくらいの長い髪、顔は悪くはないが額から口元にまで伸びている古傷がある コートには十字架のブローチのようなものがいくつも付いており そのほかにも多くの金具が付いている、そして首には見たこともない 金属製の首輪がしてある、そしてルイズが一番気になったのは 彼がぶら下げている物である。 (あれは、何?楽器みたいだけどヴァイオリンじゃなさそーだし…) 「ミス・ヴァリエール!早くしたまえ」 「あ、は…はい!」 そしてルイズは仕方なく儀式を続ける覚悟を決めた。 そしてとうの音石はというと (おいおいおいおい、さっきの会話…、こいつはスタンドとは もっと違う事態なんじゃねーのかぁ!?) 頭が痛くなっていた、つまりなにか?この桃色の嬢ちゃんが オレを召喚しったっていうのか!?などと理解していくにつれ 自分の今の現状が最悪のものだといやでもわかってしまう。 (勘弁してくれよ…、コッチは出所したばっかだってのによ~…) こう言うのは間田とかの役目だろ! あいつこういうの好きそうだしよ! どっちかって言うと巻き込まれキャラだろ! などと自分に言い聞かせても無駄だと判断し 音石は考えるのをやめた… 「ちょっとアンタ!無駄に背が高いわね…そこに屈みなさい!」 「はぁ、もうどうにでもなれだ…これでいいか?」 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて 普通は一生あり得ないんだから!」 「?」 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 長い口上を述べ少女は手に持つ杖を音石に向ける そして… 「ん……」 「…!?」 音石と唇を重ねた… 「…終わりました、ミスタ・コルベール」 「よろしい、ではみんな教室に戻るぞ」 先程の男がきびすを返すと突然宙に浮き始め それに続きまわりの少年少女も宙に浮き始めた! 「ルイズ!あんたは歩いて帰りなさいよ!その使い魔 アンタにお似合いよ~」 「うるわいわよキュルケ!」 「おいおい、あんなのもアリなのかぁ!?」 少女ルイズのキスに音石もさすがに戸惑ったが スタンドや飛行機とはちがう移動手段を見て 音石は驚愕した。 「なに言ってんのよ?貴族だから飛ぶのは当たり前でしょう!?」 「…お前は飛ばねーのかよぉ?」 「…ッ!うるさいわね!平民のあんたに合わせてんのよ!」 そう言うとルイズは城に向かって歩き出した 「そいつはなんとも優しいこったな……」 ルイズに質問することがあるため音石も後を追おうとしたが 突然、強烈な痛みが音石の左手に襲い掛かった! う…な、なんだ!?おい!左手がめちゃくちゃ熱いぞ!!」 「使い魔のルーンを刻んでんのよ、すぐに治まるわ…ところでアンタ名前は!」 ルイズがふと思い出したかのように振り向くが 自分の使い魔は腕を押さえうずくまったまま ピクリとも動かないことに気付いた。 「し…死んでる、立ったまんま……死んでる…」 「勝手に殺すな!」 「あ!よかった、生きてた!アンタ何してんのよ!」 「……出所して自由になれたと思ったのによ~~、いきなりワケわかんね~~トコに 連れてこられて…この苦しみと心の痛みィ……どこに…ブツけりゃぁ~いいんだぁ~ ……この怒りィ……誰に訴えりゃぁいいんだぁアアア~~~~……」 「え…?ちゃっとアンタ?」 ドギュウウウウーーーーーーーーーーン!!! 「え?え?ちょっとなになに!?」 ドリュラドユラドユデリレリレドリデドリデリレリレドリュラドリュラドギュギララ [ライトハンド奏法] ギュウウウーーーーーーーーーーーン!!! 「………ふう、スッキリしたぜぇ」 「ちょっと!なによ今のわけわかんない音!!びっくりするじゃない!!」 「ワリィワリィ、一種のストレス発散法だ、それで…そうそう名前だったな!」 そして音石は突然走り出しルイズを通り過ぎ城をバックにこう言った! 「名前は 音石 明 22歳 まっ!このギターは気にしないでくれ」 「ギターって何よ!!」 To Be Continued →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/704.html
ニューカッスル城礼拝堂。始祖ブリミルの像が置かれている場所に皇太子の礼服に身を包んだウェールズが佇んでいた。 周りは戦の準備や脱出者の手伝いなどで忙しいため他には誰も居ない。 ウェールズもこの式が終わり次第すぐにでも戦の準備に駆けつける予定だ。 そこに扉が開き。ルイズとワルドが現れた。ルイズの方は昨日プロシュートから式があると聞かされていたものの、まだ戸惑っている。 もっとも、昨日言われた『なら、気絶させてでも連れ帰るか?オメーにそれをやるだけの覚悟があんのならやってやってもいい』 これを本気で考えていたため、結婚の事など頭から消し飛んでいたのだが。 確かに気絶させるなりすればウェールズをトリステインに連れ帰る事はできる。 …だが、問題はその後だ。『自分一人無様に生き残ったと思い命を絶つ』 そうなった場合、下手をすればアンリエッタまでもがその後を追いかねない。 もちろん、自殺するとは限らないが『覚悟』という言葉が重くのしかかっていた。 死を覚悟した王子を止める『覚悟』ができない自分に対して自暴自棄な気になり落ち込ませていた。 ワルドはそんなルイズに「今から結婚式をするんだ」と告げアルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に載せ 続いて、何時も着けている黒のマントを外し同じく借り受けた純白のマントをまとわせる。 ワルドによって着飾られても、思考の渦に埋まっているルイズは無反応でワルドはそれを肯定の意思と受け取った。 だが、一つある事に気付いたルイズがワルドに問う。 「………プロシュートは?」 「彼なら今頃イーグル号に乗ってるところさ」 それを聞いた瞬間ルイズの心にさらに影が差す。 あれだけ『今のオレの任務はオメーの護衛だ』と言っていたプロシュートが自分を置いて先にトリステインに帰る。 (何時までたっても『覚悟』ができない自分に対して呆れ見捨てられたんだ……) そう思いさらに自暴自棄な気持ちが心を支配した。 「では、式を始める 新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」 ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 「誓います」 ウェールズは頷き、今度はルイズに視線を移すが当のルイズはハイウェイ・トゥ・ヘルが発現してもおかしくない状態だ。 そんな、状態でウェールズやワルドの声がマトモに聞こえるはずはなかった。 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」 朗々と誓いの詔をウェールズが読み上げる段階になってようやく結婚式をやっているという事に気付いた。 相手は、幼い頃からこの時をぼんやりと想像し憧れていた頼もしいワルド。 その想像が今、現実のものとなろうとしている。 ワルドのことは嫌いじゃない。おそらく、好いてもいるだろう。 でも、それならばどうして、こんなに心に迷いがあるのだろう。 そう思い、宿屋でワルドに結婚を申し込まれた事をプロシュートに相談した事を思い出した。 どうして自分は、プロシュートにそれを相談したのだろうかと思う。 (自分で決められずに他人に決めて欲しかったからだ) なぜ決められなかったか。その答えはスデに自分が知っている。 (肝心な時に『覚悟』ができていなかったからだ) プロシュートがよく言っている言葉を借りれば自分は『マンモーニ』だという事だ。 そして、その覚悟の意味を知っているであろうプロシュートは自分から離れていった。 「兄貴ィィィ起きてくれよォーーー」 壁に打ち付けられ体中に傷を作り血に塗れたプロシュートのが辛うじて握っていたデルフリンガーが己の主の名…もとい敬称を呼ぶが返事は無い。 「『ガンダールヴ』の事を思い出せそうなのに兄貴が死んだら意味がねぇだろうがよォーーー」 だが、それに答えるべき主は沈黙したままだった。 ……… ……………… ……………………………… 気が付くとさっきまでとは別の場所を歩いていた。 見覚えが無い場所ではない。いや…見覚えが無いどころかよく知っている場所 一定のリズムで規則正しく流れる音。自分が召喚される前居た『ヴェネツィア超特急』の中だ。 無意識の内に車両を進むと、一人の男が釣竿を持ってそこに居た。列車に釣竿、ミスマッチもいいとこな組み合わせだがそいつの事はよく知っている。 「ペッシかッ!」 しかし、ペッシはそれに答えずに何かを叫んでいる。 「まさかッ!この糸から墜落した一人分の『体重』っていうのはッ!うっ嘘だッ! う…嘘だ!嘘だッ!あ…兄貴がッ!ま…まさかッ!オ…オレのプロシュート兄貴がッ!う…嘘だ!」 ペッシが床に蹲りパニクって泣き始める 「どうしよう~どうしよう~あ…兄貴がう…嘘だ!!オ…オレどうすれば……? う…ううう…うう~~~そんなぁああああ…亀の中のヤツらも、でっ出てくる!ど…どうしよう~オ…オレ」 『マンモーニ』、その言葉に相応しいうろたえ様だ。当然そんな弟分にする事はただ一つ。 「オレがさっき言った事がまだ分かんねーのかッ!?ママっ子野郎のペッシ!!」 その言葉と同時にペッシの顔面に思いっきり蹴りをブチ込む。それを受けたペッシは吹っ飛びいつもの説教に突入するはずだった。 だが、それは虚空を蹴る。 「なん…だと…!?」 もう一度同じようにして蹴り上げる。だが同じだ。 さっきと同じように空を蹴るだけだ。いや、ペッシには当たっている。当たっているが、何事もなかったかのように『通り抜けて』いる。 「も…もうダメだあああああ」 「なんだパニクってらあ~~~こいつマンモーニだな~ちェッ!」 誰かにまでマンモーニと言われるペッシだがその声の主は老化が解けた乗客だった。 そこでプロシュートが理解をする。自分が居なくなった事により老化が解除された列車だという事を。 そこで全ての光景が途絶え闇になり自分がどこで、何をしていたかを思い出す。 「あの野郎にやられてくたばってるってわけか…」 こうして、考えることができるという事は恐らくまだ生きてるのだろうとそう検討を付ける。 断崖に置かれた樽と同じ状況だ。少しでも押せば谷底に、引き戻せば手元に戻る。 そして、出した結論は一つだった。 「ったく…情けねーなぁおい?何が『腑抜け野郎』だ?誰が『マンモーニ』だ? オレがここで覚悟見せねーと…この先オレがペッシにマンモーニって言われちまうじゃあねーか!!」 その言葉と同時にどこからか 「兄貴ィィィィィィィイイイイイイイ」 と聞こえたような気がし意識が光に包まれた。 「兄貴ィーーーー!」 「ペッ…いやオメーか」 デルフリンガーを杖代わりにして立ち上がる。 状態は最悪に近い。左脚にヒビが入り、全身打撲。おまけに頭も打っていてまだ視界がボヤけている。 「チッ…左目が妙だな…」 「そりゃああれだけ、やられればな」 デルフリンガーは頭を打ったせいだと言うが、それが右目と左目で微妙に違っている。だが、まだその違いに気付けないでいた。 「新婦?」 妙な様子に気付いたウェールズがルイズを見ている。思考の渦からそれに気付いたルイズは慌てて顔を上げた。 「緊張しているのかい?初めての時は事がなんであれ緊張するものだからね」 緊張…などではない。自分は一人では何も決められない『マンモーニ』だ。 だからこそ、今ワルド…いや誰かと結婚する事などできない そう思い、深く深呼吸をし生涯初めての『真の覚悟』を決めウェールズの言葉の途中首を横に振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 二人が怪訝な顔でルイズの顔を覗き込んむ。ルイズはワルドに向き直り、悲しくも何かを決意した顔で再び首を振る。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 ワルドがルイズの目を見るが、その視線は反らさない。 「日が悪いなら、改めて……」 「そうじゃない、そうじゃないの。ワルド、わたし、あなたとは結婚できない」 声そのものは小さいが、その言葉には確かに『決意』と『覚悟』が込められていた。 その言葉にウェールズが首を捻る。 「新婦は、この結婚を望まぬのか?」 「そのとおりでございます。お二人には大変失礼を致すことになりますが…わたくしはこの結婚を望みません!」 その瞬間、ワルドの顔に朱が差し、ウェールズは残念そうにワルドに告げた。 「子爵。誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」 だが、ワルドはウェールズを無視しルイズに詰め寄りその手を取る。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒む訳がないッ!」 「ごめんなさいワルド。確かに憧れてた、恋もしてたかもしれない。でも…わたし自身がまだ結婚なんてできる段階じゃない」 ワルドがルイズの両肩を掴み熱っぽい口調で語りだし、目が爬虫類を思わせるような冷たい目に変わった。 「世界だルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」 人格が入れ替わった…そう思えるほどに豹変したワルドに脅えながら何とか首を振る。 「僕には君が必要なんだ! 君の『能力』が! 君の『力』がッ!」 プロシュートが怒っている所を見て怖いと思うことはあったが恐ろしいと思うことは無かった。 あいつが人に対して本気で怒る時は必ず相手に何らかの原因があったからだ。 だけど、このワルドは違う…! 「ルイズ!宿屋で話した事を忘れたか!君は始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長するだろう!君がまだ自分で気付いていないだけだ!その才能に!」 この感情は…恐怖そのものだ。目の前のワルドはルイズが知っているワルドではない。 それだけに、今のワルドが無性に恐ろしかった。 「子爵…君はフラれたのだ。ここはいさぎよく……」 「黙っていろッ!!」 そう叫ぶと再びルイズの手をヘビが獲物に絡みつくがの如く両の手で握る。 「君の才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは『ゼロ』よ!そんな才能のあるメイジなんかじゃあないわ」 「何度も言っている!自分で気付いていないだけだ!」 「あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという在りもしない魔法の才能だけ… そんな理由で結婚しようだなんてこんな侮辱はないわ!そんな結婚…たとえ死んでも嫌よ」 ルイズがワルドの手を振りほどこうと暴れるが離れない、尋常ならざる力で握られていた。 見かねたウェールズがワルドの肩に手を置き、二人を引き離そうとするが突き飛ばされる。 ウェールズが立ち上がると同時に杖を引き抜く。 「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」 その段階になってようやくルイズから手を離すが、その顔はどこまでも優しい、『偽善』で固められた顔だった。 「こうまで僕が言ってもダメかい? ルイズ。僕のルイズ」 「嫌よ…誰があなたと結婚なんかするもんですか…!」 「ふぅ…この旅で君の気持ちを掴むため随分と努力をしたんだが…仕方あるまい。目的の一つは諦めよう。」 「目…的…?」 頭に『理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!』という幻聴が聞こえる。 「まず一つは君だ。ルイズ、君を手に入れる事。しかし、これは果たせないようだ」 「…当然よ!」 「二つ目は…君が受け取ったアンリエッタの手紙」 「ワルド、あなた……」 「そして三つ目…」 アンリエッタの手紙という言葉で全てを理解し杖をワルドに向け詠唱を始めるが それよりも、ワルドの方が閃光の如く杖を引き抜きウェールズの心臓を青白く光る杖で的確に貫いた。 「き…貴様…『レコン…キスタ』…」 ウェールズの口から血が溢れる。誰がどう見ても致命傷だった。 「三つ目…貴様の命だ」 「貴族派…!アルビオンの貴族派だったのねワルド!」 「Exactly。いかにも僕はアルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」 「トリステインの貴族のあたながどうして!」 「答える必要は無いな…これから君はウェールズや…プロシュートだったか?彼らの下に逝くのだから」 その言葉にプロシュートの名が入っている事に衝撃を受ける。 ウェールズと同時に言われたという事はスデにプロシュートもワルドに殺されたという事だ…! 杖を握ろうとしたがそれをあえなくワルドに弾き飛ばされる。 「助けて…」 蒼白になり後ずさる。立って逃げようとしても腰が抜けて立てないでいるが、その様子をみてワルドが首を振り『ウィンド・ブレイク』で吹き飛ばす。 「もう遅い…だから共に世界を手に入れようと言ったではないか…鳴かぬなら殺してしまえと言うだろう?なぁ…ルイズ…」 壁に叩き付けられ床に転がる。呻き声をあげ泣き、もうこの世にいないであろう使い魔に助けを求めた。 「助けて……お願い……」 そう繰り返し助けを求めるが、ワルドは愉しそうに呪文を唱え始めたが扉の外から足音と声が聞こえてきた。 「『殺す』…そんな言葉は使う必要はねーんだ…」 声と足音が大きくなる。そしてその声はルイズにとって聞きなれたものだ。 「なぜならオレやオレ達の仲間が…その言葉を頭の中に思い浮かべた時には…」 次の瞬間ドアがブチ破られ、ドアの破片が飛びそれをワルドが回避する。 「実際に相手を殺っちまってもうスデに終わっちまってるからだ…!」 慌てるわけでもなく、怒りをもっているわけでもなく、いつもの調子で危険極まりない言葉を吐き出し歩くのは全身傷だらけになったプロシュートだ。 「…貴様!」 「プロシュート…!」 二人が驚愕の目で傷だらけのプロシュートを見るが、ワルドの目は怒りを含み、ルイズの目は動揺を含んでいる。 「オレが昔やった事と同じ事をしたようだから忠告…しといてやる……敵の頭に銃弾をブチ込んだとしても…生死の確認ぐらいしておくんだったな…」 列車内でミスタに直触りを仕掛け、拳銃を奪い頭に3発の銃弾をブチ込み死んだものと思い亀に向かったが どういうわけか脳天に弾をブチ込んだはずの『ミスタのスタンド』が『氷』を持って『ブチャラティ』の所に居た。 生死さえキッチリ確認していれば今頃は、ブチャラティ達は全滅しボスの娘を奪っているはずだったのだ。 「…ったく、どっちの世界もマンモーニだな…!なに泣いてやがる」 ギャングであるペッシとそうでないルイズを比べるのもどうかと思うがまぁ似たようなものとして扱っているプロシュートには関係無い。 「生きてるなら…早く来なさいよ…!」 そう叫ぶが顔の方は泣き顔のそれだ。 「さっきのお前の魔法…本当にオシマイかと思ったよ…ワルド…今までお前の事『老け顔のヒゲ』だなんて思っていたが 撤回するよ…無礼な事だったな…お前は信頼を裏切れる男だ…『婚約者の信頼』を含めてな…いやマジにおそれいったよ」 淡々とした口調だがその言葉にははっきりとした意思がある。そのままゆっくりとワルドに近付くが『ウィンド・ブレイク』が飛び吹き飛ばされ壁に激突する。 だが、それでも何事も無かったかのように立ち上がり再びワルドに近付く。 「オメーは『ゲス野郎』なんだよワルド…裏切ったんだ…組織のようにな…!分かるか?え?オレの言ってる事…」 「信じるのはそちらの勝手だ。勝手に信じたものを利用して何が悪い?」 また『ウィンド・ブレイク』が飛びまた吹き飛ばされそうになるが、今度はデルフリンガーを床に打ち込みスタンドパワー全開で支え飛ばされないようにする。 「どうした『ガンダールヴ』!動きが鈍いぞ?今にも死にそうではないか。攻撃しないと僕を倒せないぞ?せいぜい僕を楽しませてくれるんだな」 だが、その言葉にも動じずその目はワルドのみを見据え歩みを進める。その歩みには一片に迷いなど無い。 「…分かったよ兄貴!兄貴がいつも言っている『覚悟』ってのが俺にも言葉でなく『心』で理解できたッ!!」 三度『ウィンド・ブレイク』が飛ぶがデルフリンガーが自分を前に突き出すように叫びそれに応じるかのように手を前に突き出す。 「無駄よ!無駄無駄ァァアアア!剣などでは風は受けることはできん!」 風がプロシュートを飛ばそうとした時デルフリンガーの刀身が光だし風を全て吸い込んだ。 「魔法を吸い込むと思ったなら兄貴…!スデに行動は終わっているんだな…!」 「そんな事ができるなら最初からやりやがれ…!」 「六千年前も昔に『ガンダールヴ』に握られて以来だからてんで忘れてたんだよ でも、これからは任せてくれていいぜ兄貴ィ!ちゃちは魔法は俺が全部『吸い込んだ』からよ!」 「…なるほど。私の『ライトニング・クラウド』を受けて生きているのはおかしいと思っていたが… その剣のおかげか。それならばこちらも本気を出そう。何故風が最強と呼ばれるのか、その由縁を教育してやる」 プロシュートとルイズはそれを見据えたまま動かないでいる。前者はあえて動かないでいるが、後者は動けないでいる。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 そうしてワルドが分裂するが、今度は1体だけではなく4体…計5体のワルドがプロシュートと相対した。 「また同じか芸がねーな」 分身が懐から仮面を取り出し顔に付ける。 「『エア・ニードル』…杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込む事は不可能よッ!!」 それを見てプロシュートがルイズの方に向かい話し始める。ワルドx5は完全に余裕の態度でそれを見ている。 「なに…ボケっとして…やがる。正念場だぜ…ルイズよォーー! フーケの時の覚悟見せやがれ…!オレが…突っ込むからよ…オメーは爆発を起こせ。自信を持て…いいなッ!」 「無茶よ!そんな…!それに、そんな怪我してるのに巻き添え受けたらどうするのよ…!」 それを聞かずに、ワルドの本体へと歩き出す。 後ろ取られないようにワルドへ向かう。 剣とグレイトフル・デッドで受け流すが、相手は五体。後ろを取られないようにしているとはいえ入れ替わるように分身と本体が攻撃を仕掛けてくる。 腕に一撃を受ける。だが止まらない。 脇腹を杖が掠め血が流れ出る。だが止まらない。 大腿部に『エア・ニードル』が突き刺さる。だがそれでも止まらない。止まろうとしない。 急所に受ける攻撃だけを受け流し、後は全て体で受け止めている。 傍から見れば一方的に攻撃を受けているだけに見えるが、ジリジリと後退しているのはワルドと分身の方だ。 「こ…こいつ!何故だ…?何故、貴様を使い魔として使役しているあの高慢なルイズのために命を捨てる!?」 「『恩には恩を…仇には仇を…』それがオレ達チームのリーダーの流儀だ… だから…オレもそれに従っている……オレの命を救ったという借りを返さねーってのは…オレがチームの流儀を裏切る…って事になるからな…!」 「兄貴!それだ!心を振るわせられればなんでもいい!『ガンダルーヴ』もそうやって力を溜めていた!」 それを聞いた瞬間ルイズに衝撃が走る。 プロシュートは自分の魔法を信頼してくれているからあんな無謀な行為をしてくれている。 ここで自分が何もしないという事はその信頼を裏切る…つまりワルドと同じ事をするという事だ…! 「まだ『覚悟』っていうのはよく分からない…けど!わたしを信頼してくれているのは『心』で理解できたわ!」 その声と共に杖を本体と分身に向け、詠唱の短いコモンマジックを連発する。 狙いはプロシュート以外の全ての物だ。 一発が分身に直撃し消し飛ばす。 それでも爆発は止まらない。残りは命中はしていないが爆風がワルドと分身を容赦なく襲う。当然突っ込んでいるプロシュートにもそれは襲いかかる。 「…くッ!邪魔だ!!」 3体の分身がルイズに襲い掛かる。だがそれでもルイズは魔法を止めようとはしない。最後まで自分の使い魔を信頼すると決めたからだ。 『エア・ニードル』がルイズを突き刺そうと飛び掛った瞬間…分身の動きが急激に鈍くなった。 「グレイト…フル・デッド…」 そう呟くように言う本体のワルドへと突き進む。 「こ…これは…!?貴様…まさか…私や貴族達を…道連れに死ぬ気か…!?」 「一瞬だ…一瞬老化させて掴めればそれでいい。爆風の熱で温まってる今なら…オメーだけよく老化するだろうよォーーーーーー!」 それだけ言うとワルドに突き進む。速い、満身創痍な状態とは思えない速さだ。 ワルドの左腕を右腕で掴むと老化を解除する。この程度の時間ならば城の連中に効果はあまり及んでいないはずだ。 「てめーにも…覚悟してもらうぜ…」 だが、そこに広域老化が解除され動きが元に戻った分身の杖が振り下ろされ… 空中に『腕が舞った』 ←To be continued ゼロの兄貴-23 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/480.html
「悔いはない・・・・・・・ 心からおまえの成長が見れてよかったと思うよ 俺はおまえに 出逢うために一万数千年も さまよってたのかもしれぬ さらばだJOJO」 ワムウは風になった JOJOが無意識のうちにとっていたのは 「敬礼」の姿だった ―――――――――― 涙は流さなかったが 無言の男の詩があった―― 奇妙な友情があった――― 「アンタ貴族に(以下略」 !! 何故だ俺はあの時ジョセフの波紋で完全に 消滅したはず・・・さらに誰なんだこの偉そうな小娘はッ! ズキュウウウウウン! 「!!!」 あまりにも急な出来事で思考が止まりかけたワムウであった ここで二つほど疑問が浮かび上がった 一つは「死んだ筈なのに何故こんなところにいるのか」 もう一つは「俺に触れたのになぜ吸収されなかったのか」 「!!!!!!!!!」 熱いッ!手が焼けるような痛みがワムウの左手の甲を襲う まるで波紋を流された時と同じような痛みッ! 痛みが治まったかと思うといきなりキスをしてきたさっきの 小娘がこちらに来た 「アンタ名前は?」 「俺の名はワムウだ」 To Be Continued
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/127.html
「んむ~~~」 「ぬうううう~~~ッ」 ベッドの上にすわりこむルイズ ドアの正面にアグラをかく仗助 いろいろ一段落はついたものの ふたりは小一時間にらみあったままだった たまに口を開いたかと思えば 「ンだよ、またバカにすんのかよ、髪」 「…ヘンタイ」 たがいにプイとソッポを向き そしてまたチラリと目が合うと 「んッ、むゥゥ~~」 「ぬううう~ッ」 このくり返しだった (くっそ~~ そりゃチカンだろーよ ムネをさわりゃあよおおお~ だけどオレがやろうとしたのは人命救助だっつうの 釈然としねー ムカつくぜっ) (なによこいつッ 使い魔のくせにご主人様をなぐるし 胸、さわろうとするなんてサイテー 大ミエ切った手前、仕方ないから追い出してないけど ケガらわしいわ 不潔だわ このチカンッ) こんなグチを心の中でタレるのも何度目だろうか? いいかげん不毛だとはどっちもわかりきっていた (だけどよぉー また一方で、コイツが助けてくれなきゃあ オレは死んでたっつー事実もあるわけでよー それに、ナニがどーなってんのかも聞いとかなきゃ ラチがあかねぇってやつだよなぁー) (でも、こいつ… 崩れた建物の下じきになったわたしを助けてはくれたのよね 使い魔のくせに魔法をつかうなんて、もっとハラ立つけど ここであたしがムカついててどうすんのよ 聞くことだってたくさんあるのに) チラッ チラッ ふたりはまた相手を見る そして (でも、やっぱりムカつくっ) プイッ プイッ また顔をそむけるのである いつまでこんなことをしているつもりか もう夜もすっかりフケていた 目が覚めたころからとっくに夜だったが 今は遠くから生き物の声しか聞こえなかった トントン 「うおおわッ」 やっとしてきた物音は仗助の背後から ドアを叩いてきた誰かだった 仗助はビビって軽くのけぞる 「これは失礼しました、ジョースケ様」 「だから、様はいらねェって」 声には聞き覚えがあったので ドアごしにこころよく応じる仗助だったが ムッ! それがまたルイズのカンにさわったようだ (使い魔のくせに「様」ですって、こいつッ というかジョースケ? 名前? 使用人にカンタンに教えてやった名前なのに ご主人様には態度悪くして黙ってるって、そーいうワケぇ?) ムッカァァ~~~~~ッ 「ルイズ様、よろしいでしょうか…」 「帰んなさい」 「ですが」 「聞こえなかったのッ」 即答 聞く耳もたないッ 「わかりました… ミセス・シュヴルーズからの、今夜の分は置いておきますから…部屋の前に」 ドア向こうの声、シエスタはスゴスゴと引き返していったようだ 仗助は少し落胆してからまたムカついた 今、目の前にいるピンク髪のバイオレンス女よりも ずっと話が通じる相手だったのに! 「おい、なにもあんなフウによー」 「るさいッ おまえ何様よッ」 「何様だはてめーだッ ゴーマンチキッ」 そろそろ我慢の限界 仗助も声をあらげてしまった 「フンッ!! 何様、ですって? いいわよ、教えてやるわよ」 バサァ ザッ!! ベッドから、マントをひるがえして立つルイズ 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール トリステイン王家につらなるヴァリエール家の三女とは、わたしのことッ」 ドン 気合いを入れた名乗りではあったが それを聞いた仗助の顔といったら 「…………」 ホケェェ~~…ッ (ルイズ・フラン…何…? 「トリステイン」…どこのヨーロッパだぁ? 王家っつわれても、聞いたこともねェんじゃあよー) 「ま…おめーが王家だろうが金持ちだろうが、どっちでもいいや」 気を取り直して、やっと話し合いに入ろうとする仗助 だがもう少し洞察力を働かせるべきだったのではないだろうか? とはいえ実際、そんなものを「悟れ」と言う方に無理があるのだが 彼も彼女も、置かれた状況をあまりにも理解していなさすぎた ヒクッ… ルイズのまぶたがケイレンした 「ふっ… そ、そぅお~ クチで言ってもワカンナイやつなのね、おまえ」 ヒクッ… ヒクッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ビンッ ビン 片手に取り出した鞭を指先でしならせ じりじりと仗助に寄ってくる 「ちょ、待、待て… どうする気だ? そいつで…その『鞭』」 「わたしはご主人様で、おまえは使い魔なのよ」 「…はぁ?」 何デンパ抜かしてんだてめー そうとしか言いようがないッ (そーいや、出会い頭にも言ってたな 使い魔だとか、ご主人様をおまえ呼ばわりだとか…) まさか本気で言っていたのか 現在進行形でマジなのかッ? だとしたら…イカレポンチか! 正真正銘のッ 「調教してやるわ、このド平民」 「冗談じゃねー 自衛すんぞコラァァ―――ッ!!」 9へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2580.html
反省する使い魔! 第十二話「無尊敬な過去、そして香水」 「なんと、お主意外のスタンド使いが………!」 「ああ、なんとか撃退したがな………」 アヌビス神との激戦から勝利した次の日、 時間にして午前11時頃、音石は学院長室でオスマンに 昨日、武器屋での出来事を報告していた。 当たり前だが、来たときに部屋に同席していた コルベールとロングビルには退席してもらっている。 「ふ~む、他人を操る剣のスタンドとはのぉ~~ して、その後ミス・ヴァリエールはどうしたのかね?」 「タバサのシルフィードで学院に戻る最中に無事目ぇ覚ましたよ 筋肉痛で元気な悲鳴あげるたくらいだ。問題ねぇよ」 「ふむ、それを聞いて安心したわい。 しかしわからんのぉ、そのアヌビスというスタンド。 君のようにサモン・サーヴァントで 呼び出されたわけでもないのに、 なぜ君の世界地球からこのハルケギニアに……………」 「………………………………」 この時。音石の頭にはある人物の言葉が浮かび上がっていた。 三年前、彼のかつての部下であった少年、間田敏和だ。 スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う……。 (…………まさか、だろ) 「まあしかし、無事解決してよかったわい。 あやうくワシの学院の生徒が 殺人鬼になるところじゃったわい。 ここはこの学院の長として何か礼をはずまんと……」 オスマンのその言葉に音石はピクッと反応した。 「お!なんかくれんの?」 「……お前さん、そこは普通遠慮するところじゃろ?」 「くっくっくっ悪いなじィさん。おれはそこまで善人じゃねぇんだよ♪」 「やれやれ、現金な小僧じゃのぉ。 まあ、言っちまったモノは仕方がない……… ホレ持ってけ、この悪党め!」 オスマンが机の中を漁り、小さな袋を取り出した。 音石は素早い動きで袋の中を確認し、 オオッ!!と歓喜の声を上げた。 以前、キュルケに対して現金な女と評価したことがあったが これでは俗に言うどっちもどっちである。 「ああそうだ、報告のついでにアンタに頼みたいことがあんだよ」 「ほう、一体なんじゃ?」 「万が一なんだが、俺やアヌビスのような スタンド使いがこの世界にいる可能性がある。 だからもし、アンタ耳に『魔法とはちょっと違う奇妙な情報』が 入ったら、俺に伝えてほしいんだ。 あんたのほうが俺よりよっぽどその手の情報が入るだろ?」 「なるほどのぉ………ふむ、あいわかった。了解じゃ」 オスマンの承諾を確認し、音石はもらった袋を懐にしまい 座っていた席を立つ。 (この世界に電気回線が走ってたら こんな回りくどいことする必要もねぇんだがなァ…… まっ!いまさら悔やんだってしょうがねぇか) 「しかしまァ、何から何まで悪いなじいさん」 「なァに、気にせんでもよい。 こちらとしても、異世界の住人である君を呼び出した ミス・ヴァリエールの学院長としての責任があるからのぉ。 それにワシ自身、お主と話していると退屈せんしの。 スタンドだのギターだの、なかなか新鮮な体験を させてもらっておるんじゃ。そのお礼とでも思っておくれ」 オスマンの返答に音石が小さく鼻で笑う、 そのままオスマンに背を向け、 部屋の扉を開けたところでまたオスマンが話しかけてきた。 「気が向いたらお主の世界の話でも聞かせておくれ。 この年寄りにも今をより楽しく生きていく薬になるわい」 「その歳で縁起でもねぇこと言わねぇほうがいいぜ爺さん。 そういうのに限ってロクなことねぇからな。 まっ、気が向いたら話してやるよ。そんじゃ」 フォフォフォフォッと学院長の愉快な笑い声を 聞きながら、音石は学院長室を後にした。 「…ふむっ、しかし彼とはまた別のスタンド使いか… ウチの生徒が被害にあった以上、 もしもの時の為に…なにか対抗策を考えんといかんのぉ………。 しかしのぉ~、一人一人が別々の能力をもっている以上 これといった対策法もないじゃろうし……、 なにより能力以前にスタンドそのものが強力じゃしのぉ~ 彼のレッド・ホット・チリ・ペッパーのような 素早く、破壊力があるようなスタンドでは 生半可なメイジなどでは歯がたたん。 はてさて……なにかうまい対策法はないものか……」 途中で椅子から立ち上がり、学院長室をぐるぐる回りながら オスマンは独り言を自分に言い聞かせ、 髭をいじりながら思考に耽っていた。 もしも恐れている事態がこの学院で起こった場合 唯一頼りになるのは彼だけじゃろう。 生徒を危険にさらすわけにもいかんしの~、 しかも学院の教師たちはほとんどが口先だけの腑抜けばかりじゃ。 ふ~~~~~~~~~~~む…………………あっ! 「しまった!彼に『あのこと』を伝えるのを忘れとったわ! やれやれ、歳をとると物忘れが多くて難儀じゃわい…… 仕方ない、モートソグニル」 オスマンが自分の使い魔の名を言うと、 部屋の中央の机の上で横になっていたネズミ、 モートソグニルが起き上がった。 「起こしてしまってすまんのぅ。ちと頼みがあるんじゃ コルベールくんを呼んできてくれんか? 今日のこの時間は、あやつの授業はないはずじゃから…… いつもの研究室にいるはずじゃ。頼むぞ………なに? あそこは臭いがひどく鼻をつつくからいや? そう堅いこと言わんでおくれ。 この歳であそこまで出向くのもホネなんじゃよ」 モートソグニルは嫌そうな顔をしながら 仕方がないと自分に言いつけ、学院長室から姿を消した。 音石はというと、ルイズと昼食時間に食堂で待ち合わせしていたため 学院のいつもの食堂の壁にもたれ掛っていた。 この時、音石も音石で、オスマンと同じように悩んでいた。 スタンド使いは引かれあうか…。 うまいこと考えたもんだな間田のやつ、 そう言えばあいつ今何してんだろ?おっと、そんなことはどうでもいいな。 だがまあ、俺以外のスタンド使いが現れたからといって まだほかにもスタンド使いがいるって確証もねぇしな……、 この引かれあう法則はほかの連中にはまだ黙っておくか…。 一通りの思考を終了させ、音石はハァッと一息吐き捨てる。 すると食堂が賑わい始めていることに気付いた。 どうやら生徒たちが授業を終了させ、 昼食をとろうと集まり始めたようだ。 音石は目を凝らしながら、そのギャラリーを見ていると ルイズ、キュルケ、タバサの三人組を発見した。 彼女たちがそれぞれの席に着いたのを確認すると、 音石もその席に向かった。 「お疲れさん、どうだ調子は?」 音石がルイズに話しかけると、ルイズが首をギギギギギッと鳴らし こちらを見てきた。髪の毛が顔を隠し、青ざめたルイズの顔。 それは一種のホラーだったため、 音石の口から「うへぇ…」という声がこぼれ落ちた。 「……最悪よ、体中は痛いったらありゃしないわ… 椅子に座るのも一苦労よ……体がギシギシいって…」 「ああ、そういえば椅子に座るときなんかギコチなかったな」 「それだけならまだしも……見てよこの手のタコ! ペンを握るときも痛くて仕方なかったんだから……」 「まったくよ、授業中ルイズの苦痛の声を聞いてると こっちまでなんか痛くなってくるくらいなんだから……」 近くの席に座っているキュルケがそう言ってはいるものの 皮肉で言っているわけではない。 純粋にルイズを心配してでの言葉だった。 「それぐらいのタコがなんだ。 オレがいた町にはなァ~、手のタコが発達しすぎて そのタコん中にナイフとか仕込んでいるやつがいんだぜ?」 「………どんなやつよそれ…」 「一言で言えば変人だな。 それ以上もそれ以下もなく間違いなくな」 その変人、『スーパーフライ』のスタンド使い 『鋼田一豊大』と音石は面識があった。 いや、面識といっても鋼田一は音石を知らない。 時期にして仗助たちが間田を打ち倒した後、 康一が由花子に誘拐される前あたりといったところだろう。 その時に音石はたまたまスーパーフライの鋼田一を発見した。 そして何の因果なのか、鋼田一はその時も仗助のときと同じように 鉄塔のボトルで魔法の絨毯のように移動していたため 音石はすぐ鋼田一がスタンド使いだと確信した。 当然、音石は鋼田一を仲間にしようと考えたが 仲間にする前にいざという時を考え、 鋼田一のスーパーフライの全貌を知る必要があった。 スーパーフライのその姿は『鉄塔』といった巨大さだ。 下手をすれば自分のチリ・ペッパーを上回る能力を 秘めている可能性があったため、 音石は一旦定期的に鋼田一を監視する必要があった。 だが生憎のこと、音石は鋼田一を仲間にする前に 仗助たちに敗北したため、結果的に無駄足となってしまった。 ついでに言うと、SPW財団に尋問されたとき 音石が鋼田一のことを黙っていたのは 当時、邪悪な精神に染まっていた彼の心が うまくいけば鋼田一が自分の代わりに仗助たちを 殺してくれるかもしれないという 姑息な考えを生んだからである。 それと疲労回復剤と偽って飲まされた自白剤。 あの時、SPW財団が質問してきた内容はあくまで 『弓と矢で射たやつ』であったため、 弓と矢が形兆によって杜王町で乱用される以前から スタンド能力に目覚めているタイプの鋼田一は その質問の対象にあてはまっていなかったこともあってか 音石の口から漏れることはなかった。 「だがまあ、その程度で済んで幸運だったと思うべきだぜルイズ」 「うっ……そ、それはわかってるわよ! あのままじゃ私がずっとその……アヌビス、だったわよね? ソイツに操られたままで、下手したらそのまま人斬りの殺人鬼に なっていたかもしれないって自覚してるし…………、 元々の原因は勝手に剣を抜いた私にあるってのも反省してる……、 でも……痛いのは痛いんだから仕方ないじゃない!!」 涙目で語るルイズの訴えに音石はやれやれと吐き捨てた。 するとキュルケが、なにかを思い当たったかのような口ぶりで ルイズに話しかけた。 「そんなに痛いんだったら、 医務室に行って治療してもらったらどうなのヴァリエール? 治癒の魔法ならそんな痛み一瞬じゃない」 (さすが魔法) キュルケの内容に音石は素直な感想を心の中で呟いた。 しかしルイズは………、 「……わたしだってそうしたいわよ……、 でも…、昨日こいつの為にいろいろ買ったから……」 「金銭不足ってわけかい、たくよ~……ほらよ!」 すると音石は懐を漁り、 先ほど学院長にもらった金貨の入った袋を 取り出し、ルイズの前に放り投げた。 「なによこれ?…………えッ!?ちょ、ちょっとオトイシ!? あんたこれどうしたのよ!!? しかも結構入ってるじゃない!!?」 ルイズは信じられないという目で音石を見た。 キュルケも少し驚いてる感じだったが タバサは関しては相変わらず黙々と本を読んでいた。 「さっき学院長の爺さんに昨日のことを話した。 ルイズを助けた礼としてもらったんだよ」 「…っ!?あんた…!私に何も言わずに何勝手なことしてんのよ!! しかも偉大なるオールド・オスマンから お金巻き上げるなんて!!」 「……彼はそれに見積もった十分な働きをした」 意外にも、黙々と本を読んでいたタバサが 突然ルイズにそう言った。正直意外な助け舟だ。 「タバサのいう通りよルイズ。 あんたは操られてたから覚えてないんでしょーけど……… 操られていたあんたははっきり言って、恐ろしく強かったわ。 でもねルイズ。あんたの使い魔は、 そんなあんたを精一杯、傷付けないとように気配りしながら 命懸けで戦って、あんたを救ったのよ?」 「…………………」 キュルケの付け足しにルイズは押し黙るしかなかった。 「でもオトイシ、学院長に話してよかったの? 色々と不味いんじゃ……」 「いや、俺とあの爺さんには それなりの信頼関係があるからな… あの爺さんは結構信用できるタイプの人間だ」 「あら?それじゃあ私とタバサは信用してないってことかしら?」 「俺の『能力(チカラ)』のことを言ってんのか? 生憎悪いがその通り。まだお前らに教えるわけにはいかねぇよ…」 「……そう、でもまァ。 結構ワケありっぽいし…、仕方ないわね」 「…………………………」 少し残念そうな顔でキュルケがそう言った。 タバサは手に持つ本を机に置いた。 その動作を合図に、音石は食堂中の生徒たちが 食事前のお祈りに入ろうとしていたことに気付いた。 「ルイズ、どうせ俺が持ってたって 価値もわからねぇし、使い道がねぇんだ。 メシ食ったらこの金で傷治してもらってこい……… ああでもツリは返せよ」 「……………………………………」 音石はそのまま、ルイズたちに背を向け 厨房のほうへ向かっていった。 「…………なんか私、オトイシに助けられてばかりね」 「え?」 「…………」 音石が厨房に姿を消したと同時に ルイズの口から突然こぼれた一言だった。 「それが使い魔としての役目だからでしょ?」 「そんな簡単な一言の問題じゃないのよキュルケ… 覚えてる?あいつが召喚さえた日、 ミスタ・コルベールが言ったこと…… 『彼は使い魔ではあるが人間だ』……… あいつはね、わざわざ私の使い魔でいる必要もないのよ。 なのにあいつは私に使い魔でいてくれている……、 いいえ、それどころか……私を助けてくれている……」 「……ルイズ、なにが言いたいの?」 「………なんだか、自分が情けないのよ 仮にも誇り高い貴族の称号をもつ私が……… 使い魔だからって、所詮他人でしかない筈のあいつに 助けられてばかりの自分が…………」 「ルイズ………」 貴族。それは誇り高き血を受け継ぐ人種を意味している。 当然ルイズは自分のヴァリエールという家名に誇りを持っている。 だからこそ複雑なのだろう。ルイズぐらいの年頃なら尚更だ。 「…………彼は……」 「「え?」」 ルイズとキュルケの声が重なる。 意外、突然口を開いたのはタバサだったのだ。 「彼は……召喚される前は自分は牢屋に入っていたと言っていた」 「ええっ!?」 「あいつがっ!?」 はじめはキュルケ、その次にルイズが驚きの声を上げる。 「……彼は過去に取り返しのない過ちを犯している 私にはわかる…、理由は聞かないで………」 ふと、ルイズは音石が以前、 殺人を犯してしまった過去のことを 自分に教えてくれたことを思い出した。 「で、でもそれになんの関係が……」 「彼自身は気付いていないと思う… 無意識……そう言ったほうが正しいかもしれない… 彼は…あなたの使い魔としてあなたを守ることによって、 自分の中にある罪に償いをしているんだと思う…………」 ルイズは反射的に振り返り、音石が向かった厨房の入り口を見た。 しかし既に音石は厨房の中に消えていた。 「……………………」 ルイズが黙り込んだ沈黙の空気の中、 その静寂に、キュルケが口をあけた。 「ねぇルイズ、一体……彼にどんな過去があるっていうの?」 「……私も知らないわ……、でもいつかわかる時が来ると思う」 「え?」 「あいつが……私の使い魔でいることが……例え無意識でも、 罪滅ぼしだと思っているなら……私は受け入れるわ。 あいつの罪を、あいつの主人として………ね だから、あいつがそれに気付くときがくるまで…… 私は待つわ。あいつが自分からすべて打ち明けてくれるのを…」 キュルケも、タバサさえも、意外そうな顔でルイズを見た。 しかしキュルケの口が徐々ににやけた。 「な、なによ?」 「………ふふっ、いいえなんでもないわ さっ!ルイズ、食事のお祈りをしましょう 後でわたしも一緒に医務室に行ってあげるわ」 「……?……あ、ありがと?」 日頃、口喧嘩している相手の妙な優しさに違和感を感じながらも ルイズはそのまま食事前の祈りを終え、 生徒たちと一緒に一斉に食事を開始した。 「今日もウマかったぜマルトー また明日もよろしく頼むわ」 「おう!遠慮せずいつだって来い!!」 厨房で食事を終え、マルトーに別れの挨拶を済ました音石は 厨房を出て、食堂の様子を見渡した。 (生徒たちもメシ済ました後の昼休みの最中みてぇだな) 次に音石はルイズたちが座っていた席を見た。 (……いねぇな、キュルケが言ってた医務室か? まっ、今日は別にやることねぇし……… ルイズに付き添ってやるかな) その場を移動いようと、音石が一歩食堂を踏み出した瞬間。 彼はある重大なことに気付いた。 「オレ医務室の場所知れねぇな」 「だったら案内してあげましょうか?」 「ああン?」 音石の愚痴を誰かが聞いていたのか、 いきなり横から声をかけられた。 その声がした方角を見てみると、 特徴的なリボンをした少女、 モンモランシーが音石を見上げていた。 「またお前かよ、えーっとぉ確か名前は………」 「またで悪かったわね、モンモランシーよ 覚えときなさい、『香水』のモンモランシー」 「………『洪水』?」 「『香水』ッ!!」 (ぷっ、おもしろいなこいつ) 自分の二つ名の間違いを否定する際の モンモランシーのリアクションに音石はちょっとニヤけた。 「で?その『香水』のモンモランシーさまは どういう心境の変化でこの俺の手助けなんかしてんだぁ?」 以前も言ったが、モンモランシーは 音石が決闘で半殺しにしたギーシュの恋仲だ。(ルイズに聞いて確認した) そんな女が自分の手助けなど、気味の悪い話である。 (相当変わり者なのかぁ、こいつはぁ?) 音石からしてみれば、この考えが一番妥当である。 「別に、ただいつまでもそんなトコに突っ立ってられても迷惑だし わたしもちょうど医務室に用があるし………… ついでよ、ついで!ほら、ついて来なさい」 モンモランシーはそのまま音石を通り過ぎ食堂から廊下に向かう。 ルイズみてぇな奴だな、などとデジャヴ感を覚えながら 音石はそのままモンモランシーの後を追った。 「……おめぇ一体どういうつもりなんだ?」 「え?」 医務室に向かう廊下の途中、 音石はモンモランシーに自分の疑問をぶつけた。 「普通によぉ、考えてみたって変な話じゃねーか? ルイズから聞いたぜ? お前、俺が決闘で半殺しにしたギーシュの恋人らしいじゃねーか こっちはただでさえその件で学院の生徒連中にびびられてるってのに、 どういうつもりなんだぁ?気味が悪いったらありゃしねぇ…」 「………………………」 その言葉にモンモランシーが黙り込んで足を止めた。 音石もそれに続いて足を止める。 モンモランシーは少しまじもじした様子でそっと口を開いた。 「た、たしかに今のあんたはこの学院のお尋ね者よ! みんなあんたのことを恐れてるし、 なかにはあんたのことを『貴族の敵だ』って言ってる人もいる……、 私だって……あんたがギーシュを あんな目に合わせたのは正直言うと、許せない気持ちはある」 すると次にモンモランシーは音石から視線を外し、 照れたような口調で言葉を連ねた。 「………でも、あんたは………あなたは私を助けてくれた。 それに、あなたがギーシュと決闘した理由は ギーシュに二股の罪を擦り付けられた 給仕を助けるためだってのも知ってます。 だからその……なんていうか……… わ、わたしは……あ、あなたのことを尊敬してるのよ、 貴族とか…平民とか、関係なく……… ひとりの人間として………」 モンモランシーがそう言い終わると 赤くした顔を隠すために前に向きなおり 廊下にあるひとつの扉に入っていった。 どうやらそこが医務室らしい。 「……おれは、誰かに『尊敬』されるような人間じゃない」 モンモランシーに言ったたわけじゃない、 ただ……音石はだれにも聞こえることなく、ポツリと呟いた。 どこか複雑で、どこか悲しさを感じさせるような表情で………。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/725.html
「……私は…公爵家の三女として…生まれたのよ。父様も母様も姉様達だって優秀なメイジなのに… なのに…私はドットですらない…簡単な魔法ひとつまともに使うことができていないわ…!使い魔召喚の儀式ですらまともにできない私はきっとメイジではないのよ…! ……きっとこんな私を父様や母様はヴァリエール家にいることを許さないわ…!」 ルイズの独白をトリッシュはただ黙ってきいていた。ルイズの言葉からは家族に見捨てられることへの恐怖と家族の期待を裏切った自分へのふがいなさを責める気持ちがない交ぜになった悲しい気持ちを十分にトリッシュへ伝えてきた。 それは家族を失ったトリッシュにはもう失ってしまった感情のひとつだった。トリッシュはルイズを慰めるための言葉が見あたららない。 トリッシュは気がつくとベットに腰掛けてルイズの傍らでルイズの頭をなでていた。 ルイズは驚いたようにトリッシュをみたがトリッシュがはじめて見せるやさしい顔をみて、何も言わずされるがままになっていた。 なによりトリッシュになでられていると学院にきて心の休まるときがなかったルイズにかつての心のよりどころであるカトレアを思い出させた。 心地いい気持ちに身をゆだねるようにいつしかルイズはトリッシュの肩に頭を預けた。 「ねぇルイズ…使い魔がちゃんといれば…家族にも見捨てられることはないのかしら?」 「あなた…なにを…いって…」 「例えば…私があなたの使い魔になれば…ルイズ、あなたは馬鹿にされることもなく、家族にも見捨てられることはなくなるんじゃないの?」 『トリッシュ、ソレナラバ私ガルイズノ使い魔ニナッタホウガヨイノデハ?』 「スパイス・ガール…あなたではだめよ。ルイズには『なぜか』見えているようだけれど…他の奴らにはスタンドは見えないわ。それに、ルイズが使い魔として召喚し、契約したは私よ。他の奴らにもわかるように私がルイズの使い魔になるべきなのよ…!」 ルイズは顔を上げトリッシュを見上げた。そこには力強い意思の光を感じるトリッシュの目がじっと自分を見ていた。ルイズはなぜか顔を赤らめてしまった。 「…でも、いいのトリッシュ、私の使い魔になっても…?」 ルイズはとても信じられなかった。なぜなら、トリッシュがここにきてから自分の使い魔になってくれるような要因は何一つ見当たらない。 逆に『ならない』理由なら山ほど見当たったが。 「ルイズ…私は、私の居場所にやがて帰らなくてはならないと思っているわ。…でも、ルイズ…、あなたが私を元の場所に戻すために協力してくれるというのであれば…元の場所に戻るまでの間なら、ルイズ、あなたの使い魔になってもいいわ」 ルイズはこくこくと、肯定の意味を示すように首を振ると、トリッシュはルイズに微笑みながらやさしく頭をなでた。 「さぁルイズ…もう寝ましょう。ずいぶんとたくさん泣いて、疲れたでしょう?ベットに横になりましょう?」 トリッシュはルイズをベットに運び、横にさせた。 「トリッシュ…もう少しだけ…もう少しだけ…頭をなでていてくれないかしら?私が眠るまでの間でいいから…」 ルイズは顔を真っ赤にさせながらトリッシュの服をつかみながら恥ずかしそうに消え入りそうな声でトリッシュに言った。 「…ええ、いいわよ、ルイズ。ゆっくり休みなさい…」 トリッシュはやさしくそういうとルイズの頭を抱きながら、ルイズのふわふわした髪をやさしく、やさしくなで続けた。 5分ほどそうしているとルイズの口からすーすーとかわいらしい寝息が聞こえてきた。 そのルイズを起こさないように、スパイス・ガールが遠慮がちにトリッシュに聞いてきた。 「トリッシュ…ヨイノデスカ?当初ノ予定デハ、ルイズカラ召喚ノ時ノ話ヲ聞イタラ、サッサト他所ヘ移動スルハズデハ…? 使イ魔ナドニナッテ…一刻モ早クイタリアヘ帰ルタメニコウドウスベキデハ…?」 「いいのよ…スパイス・ガール、コルベールに聞いた話ではイタリアに帰るにはかなり苦労しそうだし…何よりルイズをほうっておくことが私にはできないわ…」 トリッシュはそういうともう話は終わりと目を閉じた。 (トリッシュ…アナタハ…ヤサシスギマスヨ…マッタク) 近くでスパイス・ガールのため息が聞こえたような気がしたが、トリッシュは無視してさっさと寝た。 抱きしめた、小さな少女の体温をしっかり感じながら。